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2022年8月号の答え
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■■特許がとれる!?■■(古野裕介)
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先日、歩道を歩いていると、「ビーッ」という耳慣れない電子音が後ろから近づいてきました。何かと思って後ろを振り向くと、車道を走行する電気自動車が、その存在を知らせるために、エンジン音の代わりに放音している電子音でした。電子音は、不必要に大きな音ではなく、不快な音色ではなく、しかし確実に電気自動車の存在を知らせてくれる音であり、この電子音にも色々な特許があるのだろうなと何となく思いました。
今月のクイズは、この電子音をヒントに思いついたものであり、ある技術について特許が取れるかどうかを質問するものです。このクイズを通して、特許がとれる/とれないの境界について、ほんの少しでも理解が深まれば幸いです。
【問題】
以下のケース1、ケース2で示す技術は、特許となり得るかどうか答えよ。-
1.ケース1
今、ある特定の周波数S1の音を移動体から発したときに、移動体の存在を周囲に知らせる効果が非常に高いことが知られているものとする。このような中、船舶や、小型航空機では、移動体の存在を周囲に知らせることを目的として発する音の周波数として、周波数S1が採用されている。 一方で、現時点(10年ほど前の時代を想定しています)は、電気自動車が出始めの頃であり、エンジン音に代替する音(以下、便宜上、「注目音」という)を発するタイプの電気自動車はいくつか存在するものの、注目音の周波数に周波数S1を採用する電気自動車は、一切、存在しない。すなわち国内外の大手自動車メーカを含む全てのメーカが販売する電気自動車において採用されている周波数は、周波数S1とは異なる周波数である。また、電気自動車の注目音に周波数S1を採用する旨の記載が乗った特許出願は一切、出願されていない。
ただし、電気自動車の開発者であれば、注目音の周波数として周波数S1を採用することは普通に思いつくことであり、また船舶に用いられている放音装置を電気自動車に普通の方法で取り付ければ、電気自動車による周波数S1の注目音の放音は実現できる。
以上の状況の中、「周波数S1の注目音を放音する電気自動車」は、特許となり得るか。 -
2.ケース2
ケース1と同様の状況の中、ある大手自動車会社の下請会社のAさんは、周波数S2(周波数S1とは全く違う周波数)を電気自動車から発したときに、周波数S1以上に移動体の存在を周囲に知らせる効果が高いことを見出した。それまで周波数S2は、移動体の存在を周囲に知らせる効果は“低い”と考えられており、電気自動車は勿論、船舶や、小型航空機等のあらゆる移動体について周波数S2を採用するものは存在しない。Aさんは、繰り返し実験を行い、船舶や、小型航空機等、車道を走る移動体以外の移動体では、周波数S2の音は確かに移動体の存在を周囲に知らせる効果は低いものの、車道を走る電気自動車に採用するとなぜか、上記効果が非常に高まることを確認した。なお、なぜ電気自動車だけ効果が高まるのかは、最後まで分からなかった。
以上の状況の中、「周波数S2(≠周波数S1)の注目音を放音する電気自動車」は特許となり得るか。
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■■【 答え】 ■■
まずケース1ですが、ケース1は、特許にならない(或いは特許になる可能性が極めて低い)と言えます。
違う分野/違うカテゴリにおいて周知な技術を、本分野/本カテゴリに単純に採用した場合において、採用することを専門家が簡単に思いつき、また、採用する際に特に困難性がない場合には、原則的には「進歩性」がないとして、特許性が否定されます。進歩性とは、既に存在する技術から簡単に思いつかない程度に優れていること、という要件です。つまり、日本では、既存の技術から簡単に思いつく技術は特許が取れないこととなっています。ケース1については、周波数S1が移動体の存在を周囲に知らせる効果が高い点は周知な事項であり、電気自動車の注目音に周波数S1を採用することは専門家が簡単に思いつく事項であり、また、採用する際に特に困難性はありません。従って、上述した進歩性がないとして、特許が否定される可能性が極めて高いです。 -
ケース2は、特許になり得ると言えます。
すなわち、ケース2の本文の内容より、「周波数S2(≠周波数S1)の注目音を放音する電気自動車」という技術は、Aさんの独自の始点と努力が生み出したものであり、この技術は専門家であっても思いつかない(むしろ周波数S2を電気自動車に採用を敬遠する)ものであることが伺えます。従いまして、上述した進歩性の要件をクリアしていると考えられ、ケース2で示された技術は特許になり得ると考えます。なお、周波数S2を電気自動車に採用すると特定の効果が高まることは実験的に確かめられているものの、その原因が不明である点がケース2の本文に記載されています。効果が確実に発生する限りにおいて、「原因が不明であること」は、特許性に影響を与えず、問題なく特許の対象となります。
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